田辺聖子を読んでいく記録

田辺聖子の著作を読んだ感想とかを書く

男を書くと急にトーン変わる:「大阪無宿」

田辺聖子(1964)「大阪無宿」『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』文藝春秋新社.

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短編集『百合と腹巻き』で読んだ。

以下ネタバレあり。

 

1.感想

 

田辺聖子,男視点で男を書くの実は凄く苦手なんじゃないだろうか。女を書いてるときの解像度の高さが全くなかった気がする。

恋愛にも仕事にも組合活動にすら本気になれない男が,情熱だけで突っ走って行く友人を見て(しかも元カノを取られて)眩しく思い,自分を更に暗い方へと追いやる話だった。

友人が小さい安普請ながらも店と家を構え,女房を貰ったのを見て,はっきりと羨むでも恥じ入るでも逆恨みするでもなく,なんとなく「無宿」に感じる……というのはリアルなのかどうか。

純文に出てくる男の感情豊かで情念の籠もった苛烈さがないし,無気力を描くにもなんかもっと無気力な雰囲気が読み取りたかったし,そういう中途半端さをもってして「男を書くの苦手なのかなあ」と思った。

今のところ,田辺聖子若い女の子を書くときが一番好き。溌剌として不安に苛まれもするけど幸せと素敵な恋愛を夢見てる,ときに猛烈に愚かになるけどものすごく可愛く感じる若い子。

若くて愚かで,でもそれが「通ってきた道」だと思わせる説得力・解像度の高さは中島みゆきと似てる。『タクシードライバー』の愚かな女子よ…。